第18章 第十八話
「私は地元の大学希望してるよ。方言の研究したいんだ」
中学時代は自分を恐れてあまり話すことは無かったのに、今ではすっかり気心の知れた友人の1人として七海は知念に接するようになっていた。
七海もまた知念と同じで如月のことを心から心配していたにも関わらず、ずっと連絡が取れないことに気を揉んでいた。
そのことが二人の間に妙な連帯感を持たせ、いつしか以前の如月と知念のように、毎日自然に会話する仲にさせていた。
話してみれば、お互い思ったよりも相性は悪くなく、時にクラスメイトに冷やかされることもあった。
知念はそんな七海に手を伸ばしてみてもいいかもしれない、と思うようになっていた。
きっと彼女も知念の手を掴んでくれるだろう。
流れゆく時間は誰にも止められるものではなく、その流れゆく時の中で変化していく人の心も、誰にも止められるものではなかった。
少しずつ少しずつ薄れていく如月の笑顔に、知念は自分の薄情さを覚えつつ、返事をよこさない彼女も悪いのだ、と考えた。
新学期が始まったばかりではあったが、テニス部はすでに活動を始めていた。
春の新人戦に向けて気合を入れて新体制になった部活を盛り上げているのは、中学の時と同じ木手永四郎だった。
彼の指示に従って、めいめいがトレーニングに励む。
トレーニングが一通り終わった頃、木手が部員達を集めてレギュラーを決める試合を行う事を部員達に告げる。
このレギュラーが次の試合に出るメンバーとなる為、誰もがみな一様に真剣な表情になる。
同じ目標を目指して一致団結する仲間とはいえ、今はライバル同士。
暦の上では春であっても、うららかな日差しとは言えない太陽の光を浴びて、部員達は一心にレギュラーの座を求めて争った。
知念は無事にレギュラーの座を獲得し、次の試合で同じくレギュラーを勝ち取った平古場とダブルスを組むことになった。
平古場とは中学時代から何度となくダブルスを組んできただけに、息を合わせるのは容易かった。
春の新人戦も、夏目前の全国大会をかけた試合も、知念は平古場とダブルスを組んで出場した。
息のぴったり合った2人のダブルスは向かうところ敵なしで、易々と勝利を手にしたのだった。
そんな2人に向けて、フェンス越しに大きな声で声援を送る女子生徒の姿を、平古場は目ざとく見つけていた。