第17章 第十七話
部室に来る前に偶然木手が同級生から告白されている現場に出くわしたのだが、木手ははっきりとこう言っていたのだ。
『申し訳ないが、君の気持ちに応えることはできません』
木手の言葉に、想いを告げに来た同級生は泣きそうな目で、『如月さんのこと、忘れられないのね』と尋ねた。
静かに木手は頷いて、『そうです』、と答えた。
『分かっていたけど、私ならその穴を埋められるかも、ってうぬぼれてた』
『…君がいつも俺に寄り添ってくれていたのは気が付いていました。…けれど、俺は当分彼女のことを忘れられそうにない』
『……そう、分かった。………でも、私もそう簡単にあなたの事を諦めきれない。いつか、もう一度…想いを告げても構いませんか?』
『…君の気持ちに応えられる確証はありませんよ…?』
『うん、それでもいいの。その時もダメだったら、申し訳ないけど、また振ってくれる?』
それ以上は二人の会話を聞き続けるのをやめたので、その後木手がなんと返事をしたのかは分からないが、いまだ木手が如月のことを想っていることだけははっきりしていた。
報われない想いを抱き続けるのは並大抵の神経では出来ないことなのに、『諦めきれない』と木手に言い切った女子が知念には眩しく思えた。
自分も彼女と同じくらい強くあらねばならない、と知念は今一度自分の気持ちを奮起させた。
「…そういえば、如月さんから連絡はあったのか?」
和やかな雰囲気を壊してしまうかもしれない、と平古場は思いつつ、気になってしようがなかったことを口に出した。
しん、と静まる部室の空気に、平古場はやはり口にすべきではなかったか、と思った。
「まだ、ない。…けど、メールは送ってるんど。アドレス拒否はされてねーんから、望みはあるはずやんに」
うん、と頷いて力強く答える知念の姿に、平古場は、そうか、と目を細めて返した。
「いつか返ってくるはずばーよ」
無責任な発言ともとれる平古場の言葉だったが、そこには平古場の願いが込められていた。