第17章 第十七話
クリスマスソングが街に流れ出したと思ったら、あっという間に年が明けて、いよいよ高校受験本番の日が迫って来ていた。
そんな中訪れた中学生活最後の甘ったるい匂いでいっぱいになるイベントで、知念もいくつかチョコレートを手渡された。
そのうちのほとんどは義理チョコだったが、その中にたった一つだけ本命チョコが混じっていた。
知念はその本命チョコを渡して来た女子の気持ちに応えるつもりはさらさらなかった。
だから悪いけど受け取れない、と返答したのだが、気持ちだけ受け取って欲しいと懇願されて仕方なく受け取ることにした。
震えるその女子の小さな姿に、知念は少しだけ如月の姿を重ねたのだった。
「おー、寛も結構もらってるやぁ」
「えっ、俺より多いのかよ…納得いかねーんど!」
もうとっくに引退してしまったのに、未だに何かと部室に集まってしまうのは何故だろうか。
誰が集合をかけたわけでもないのに、放課後に自然と誰からとなく顔を出しチョコの数を競い合ういつものメンバーに、知念はどことなくホッとする。
「永四郎は相変わらずモテモテなことで」
平古場がちらりと木手の両脇に置かれた紙袋を覗き込み、深いため息をついた。
大きな紙袋いっぱいに思い思いのラッピングが施された色とりどりのチョコ達が詰め込まれていた。
「荷物になるので困るのですがね」
言いながらも、その数の多さをどこか誇らしげにしているようで、そんな木手に平古場と甲斐がいやだいやだ、と苦い顔をした。
如月のことをすっかり忘れてしまったように振る舞っている木手だったが、彼が彼女のことを忘れてなどいないことは知念には分かっていた。