• テキストサイズ

純情エゴイスト(比嘉/知念夢)

第17章 第十七話



如月が沖縄を離れてから、知念の毎日はどこか色褪せてしまっていた。
毎朝、顔を会わせると微笑んで「おはよう」と挨拶をしてくれた彼女はもういない。

如月は自分のことを拒絶しているのか、いまだに連絡が来たことは一度もなかった。

どんよりとした鈍色をした空模様が続き、知念は冬の気配が近づいてきたことを知る。
冬が近づいても晴天の日には初夏のような陽気のこの気候に慣れた如月は、今どこでどんな生活を送っているのだろうか、と知念はどことも知れない場所にいる彼女を想った。
暖かな沖縄の冬に慣れきった体には、本土の冬はさぞ堪えるだろう。
吐く息さえ白くなると言うその寒さを思って、知念の体はぶるりと小さく震えた。

(風邪、ひいてないといいけどな…)

そんなことをメールに打ち込んで、知念は返事を期待せずに如月にメールを送った。
あの日、如月にメールを送ってから、週に一度は必ず彼女にメールを送るようにしていた。

彼女はそんなこと、求めていないかもしれないが、何もせずただ待つことは知念には出来ないでいた。
少しでも彼女と繋がりを持っていなければ、だいぶ薄くなってしまったように思える彼女との絆は、簡単に切れてしまいそうな気がして怖かったのだ。

他愛もない出来事を書き連ね、如月の現状を気にかけ、またメールする、と締めくくるのが定番になっていた。
知念の一方的なその行為が、果たして彼女にとって迷惑なのかそうでないのか、知念には判断できないでいた。
メールの返事がこない代わりに、そのメールが拒否されて返ってきたこともなかった。

本当に如月が知念のことを拒絶しようと思ったのなら、アドレスを変えるなり、知念のアドレスを拒否設定するなり、なんらかの手を打つだろう。
それでもこうやってメールが届けられるということは、彼女にはそこまでの意思はないということだ、と知念は思っていた。

いつかこのメールが彼女の元に届かなくなるまでは、知念はメールを送ることを辞めようとは思わなかった。

/ 159ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp