第3章 第三話
それからというもの、如月は毎日のように知念の家にやって来ては仔猫のミルクやエサを持ってきて、アレルギーが出るのも構わずに仔猫の世話をしたがった。
マスクにメガネに手袋という完全装備で挑もうとする如月の根性には知念も認めざるを得ず、止める木手を知念が宥めることとなった。
「大丈夫!今日はマスク2重にしてきたから!ほら、メガネも花粉症用のやつ!」
見て見て!と知念に飛びつかんばかりの勢いで話かける如月に、知念はまた妹達の姿を重ねた。
保育所から帰って来るなり「ねこちゃん!ねこちゃん!」と部屋を走ったり飛んだりするちび達と、彼女の姿は同じといっても過言ではなかった。
「今日はブラッシングしておいたから、毛が抜けるのも若干減ってるはずさぁ…………ちゃんとシャンプーもしてるんど、永四郎」
木手の鋭い視線を感じて、知念は木手に言われる前に言葉を付け足した。
猫アレルギーの原因は猫の体毛、フケ、唾液、尿なのだと木手が以前知念に説明してくれた。
中でも体毛とフケは防ぐのが難しい。
しかしできるだけ如月にアレルギー反応が出ない様に、と木手は知念にシャンプーの重要性を説いたのだった。
「…ダメだと言ってもキミは世話するのでしょう。…キツイ思いをするのは自分なのに、物好きですね美鈴も」
「だって猫大好きだもの!」
にっこりと微笑む彼女の顔はとても純粋で、それゆえに知念の心をぎゅっと掴んだ。
木手が如月に対して、今まで付き合った彼女より強い執着を見せるのも分かる気がする、と知念は思った。
「あまり構い過ぎるのもよくないですよ。ストレスを感じてしまいますからね」
「うう…分かった…。今日はこれで我慢する」
一通り世話をして遊んでやったあと、木手に言われて如月は名残惜しそうに仔猫をケージに戻した。
戻した後も、穴があいてしまいそうなほど如月は仔猫に熱い視線を注いでいた。
ケージの前から動きそうにない如月を見て、木手と知念はあと30分は彼女がそこでじっとしているだろうと予測した。