第7章 【照島 遊児】お前がいないと楽しくない
バレンタイン当日。
学校は休みだが、部活はもちろんあるわけで…。
「照島がチョコ一個ももらえないなんて・・ぷぷぷ」
「うるせぇー!ジリ!!」
「ひろかちゃんと付き合ってた時はもらってたのにな」
「確かに!あれじゃね?遊び相手にならいいけど、本命彼氏は無理的な?」
それそれ~!と楽しそうに盛り上がる仲間に一発ずつ殴って、俺はサーブ練を始めた。
しかし、得意のサーブも全然決まらない。
「あぁ!クソっ!!!!」
頭に浮かんでくるのはひろかの顔ばかり。
あの男にチョコレートを渡したのか?
ひろかは今俺と居なくて楽しいのか?
俺と一緒にいた時よりも笑ってるのか?
大切な物は失ってから気付くなんてよく言うけど本当だな。
俺はひろかの優しさに甘えていたんだ。
いつももらってばかりで、何も返してなかった。
好きだなんて伝えてなかったし、気の利いたプレゼントなんてしなかった。
ひろかは無条件で俺を好きでいてくれているって勘違いしていた。
バレーも母畑達も、俺にとってはすげぇ大事で。
俺のすべてはひろかだけではなかったけど、
それもひろかがいなくなることで、何もかもうまく行かなくなった。
ひろか無しでは何もかも楽しくない。
ひろかと居ないと、何も楽しめない。楽しくないんだ。
バタン。
ひんやりと冷えた体育館の床に俺の想いを溶かした。
視界に広がる窓から差し込み光が眩しくて、俺は目を瞑った。
「お疲れ~」
部活が終わり、俺はまっすぐ家へ帰った。
今日はみんなとどこかへ行く気分ではなかったから。
近くのスーパーで飲み物を物色していると、バレンタインのコーナーで他校生の女子たちが楽しそうに話をしていた。
「これ可愛い~!自分用に買っちゃおうかな~」
彼女たちが去った後にワゴンを覗くと、ピンクのくまのチョコレート。
そしてくまのチャームがついていた。
俺はそれを手に取り、ジュースと読みもしない雑誌の間に挟んでレジに持って行った。
ピッ ピッ
別に悪い事をしているわけではないのに、心臓がバクバクする。
初めてエロ本を買った時のドキドキ感に少し似ていて、俺は顔を伏せるように会計を済ませた。