第7章 【照島 遊児】お前がいないと楽しくない
「照島~、見てみて!これ可愛くない?自信作!」
今日はバレンタイン前日。
今回のバレンタインは土曜日ということもあり、前日の今日、クラスの女子が手作りのチョコレートを見せびらかしに来た。
「俺はこれがいい!何?俺にくれんの?」
「・・はぁ?あげないけど?」
そう言って俺の前に差し出したチョコレートを背中の後ろに隠した。
「いいじゃん、俺にもくれよ!友達じゃん!」
なぁなぁ!とブレザーの裾を引っ張ると、パシンと叩かれた。
「バレンタインは女子にとって大事なイベントなんです!義理チョコなんかあげてる場合じゃないから!」
行こっ!と女子軍団は去って行った。
「じゃぁ、なんで俺に見せてきたんだよ・・」
彼女たちの背中を見ながらため息をついていると、母畑が声をかけてきた。
「照島、今年はチョコ一個ももらえないんじゃね?」
母畑はニタニタ笑いながら、俺の席の前に腰掛けた。
そして、携帯をいじりながら、そう言えば・・と口を開く。
「ひろかちゃんはあげるのかな、例の年上彼氏に」
「・・・・」
「ひろかちゃん、毎年お前に手作りのチョコ渡してたよな。ホワイトチョコ。今年は別の男の元へ行っちゃうのか~」
「・・何が言いたいんだよ!」
俺がそう言うと、母畑はそのまま携帯をいじりながら、べっつに~。と笑った。
中学からずっと、バレンタインにはひろかの手作りのチョコレートをもらっていた。
初めてもらったチョコは、ミルク・ホワイト・ストロベリーの3種類が入っていて、俺がホワイトチョコが好きだと言うと、次の年からはホワイトチョコをメインに使ったものに代わっていた。
そして、毎年ホワイトデーにはストロベリーのチョコをお返しした。ひろかはピンクが好きだったから。
あれ?
去年、俺何を返したんだっけ?
記憶を辿っても全く思い出せない。
そう、俺はお返しを忘れていたのだ。
でもひろかは何も言わなかった。
そうだ。もし怒ってくれれば俺も代わりに何かをおごったりも出来たけど、ひろかは何も言わなかった。
「・・やっちまった」
「何を?」
「いや、ちょっと・・」
母畑の頭の上にはハテナマーク。
俺はもう一度大きくため息をついて机に覆いかぶさる。
今さら後悔してもどうしようもない。