第7章 【照島 遊児】お前がいないと楽しくない
「遊児~?早くお風呂入っちゃいなさい!」
「今入るからっ!!」
俺は自室で課題とにらめっこしていた。
どうしても分からない問題があり、咄嗟にスマホを手に持った。
いつもの癖でひろかの電話番号を表示し、発信ボタンをタップする寸前で手が止まった。
「あっ・・ぶねぇ」
俺はすぐにホームボタンを押し、大きく息を吐いた。
スマホの待受けは、ひろかとの2ショットから好きなバレー選手の画像に代わり、
お揃いで無理やり付けられたチャームは机の引き出しの中。
ひろかが好きだと言う匂いの香水も今は付けていない。
机の上に散らばったプリクラが目に入り、何気なく手に取ると初めて撮ったプリクラが出てきた。
そこにはまだ中学の制服を着た2人が居て、俺はガッチガチに緊張した表情をしていた。
2人の距離は微妙に空いていて、この頃はまだ手も繋いでいなかったよな。なんて少し吹き出して笑ってしまう。
「そーいえば、告った時も緊張しすぎて腹痛くなったんだよな」
あの頃は若かった。なんて、いかにも経験豊富そうなことを言ってみた。
初めてのデートの時は、何を話したらいいのか分からなくて、ただひたすらバレーの事を話した。その当時、ひろかはバレーのルールすら知らなかったから本当は楽しくなかったはずなのに、ずっとニコニコして俺の話を聞いていたっけ。
初めて喧嘩をした時は、ひろかがバレー部の男子と仲良くしていたから俺がキレたんだよな。けど、ひろかがそいつと仲良く話をしていたのは、俺の誕生日プレゼントの相談をしていたからだと知った時は、恥ずかしくなって余計に怒ったんだっけ。
初めてキスした時は、勢いよく行ったもんだから、歯が当たって最悪だった。失敗してへこんでる俺にひろかが笑ってほっぺにキスをくれたんだっけ。
懐かしい。
「遊児!!何やってるの!?」
母親の声がして、我に返る。
違う。俺は今楽しいんだ。
だってそうだろ?
ゲームに夢中になって既読スルーしても怒られないし、
休みの日に叩き起こされることもない。
興味のない映画に付き合わされないし、
エロ本だって隠さなくていい。
今何をしているか随時報告しなくてもいいし、
小遣いだって自分のためだけに使えるんだ。
俺は自由と一緒に左側に感じる寒さを得た。