第1章 午睡
花子はペンナイフの蓋を外してわざとヒールの音をさせて火神に歩み寄る。
狭くて暗い部屋にこつ、こつ、こつと音が響く。
この日のために作った真っ白いワンピースとピンヒールが色のない部屋でやけに目立つ。
火神の眼に恐怖がちらりと滲んだ。動けない状態で目の前に刃物があれば当然か、と花子は他人事のようにこぼした。花子は機械的に火神のワイシャツのボタンの糸を切り取っていく。火神の咽がひゅ、と音を立てた。
花子が目線を遣ると大げさなほどに警戒をしている。
「大丈夫、あとでちゃんと付け直すから。私、裁縫部なの」
くすくすとわらいながら見当はずれの事をいう花子を火神は不信感を視線にこめて花子をみつめた。