第1章 午睡
かすかにほほが震え、明らかに恐怖していた。
体格も力も、なにもあなたに敵いはしな花子に。
並み居る選手を倒れさせるほど強烈な強さをもつあなたが、見知らぬ男がわたしにからんできたとき、守ってくれたあなたが、花子に恐怖している。 ああ憐憫、恐怖、後悔、知らない、私は知らない。知らない。
花子はペンナイフをふりあげると鳩尾へおもいきり
「おい、山田」
あきれたような声のあと眩しい日差しが花子を現実に引き戻した。5月のさわやかな風でカーテンが揺れている。目の前にずいと突き出されたプリントの束がおしつけられる。
早々に前を向いてしまった火神に小さくごめん、と言って花子はプリントを一枚とって後ろにまわした。