第9章 手を差し伸べてくれたのは
◇ ◇ ◇
(僕、何か呼び出されるようなことしたかな…)
夏貴は眉を寄せながらひとり寮の廊下を歩いていた。
先程食堂で夕飯を食べていたら似鳥にこの後19時に部屋まで来るよう言いつけられた。
これが俗に言う呼び出しというものだろうか。
呼び出されるようなことは身に覚えがない。
強いて言うならば、凛に対して少々当たりが強いことだろうか。
だとしたら、なぜ似鳥に?と夏貴の疑問は深まる。
似鳥は穏やかで物腰が柔らかいとはいえ、先輩であることには変わりない。
夏貴が悪態をつくのは凛に対してのみで、似鳥含め他の先輩部員には最低限失礼がないよう接してきたつもりだ。
似鳥はとても凛のことを慕っている。見方によっては心酔しているようにも見える。
そんな似鳥からすると、凛に対して悪態をつくことが気に入らないのか。
しかしそのような態度をとるのは私の時間のみで、公である部活中はきちんと序列を守っている。
(僕はこれから詰められるのかな…)
部屋に入って胸ぐらを掴まれるところまで想像した。
どこぞの不良漫画の一場面か。と、そこまで想像してその妄想をかき消した。
いくらなんでもそれは無いだろう。
胸ぐらを掴まれたくらいで動じる夏貴ではないが、出来れば穏便にことを済ませたい。
さっきからやけに寮内が静かだ。
いつもだったら誰かしら先輩や同級生とすれ違うのに、今日は誰とも会わない。
(僕、そんなに嫌われてたっけ…)
悲しすぎる想像をした。
先輩や同級生総出で呼び出しをしている可能性を考えた。
自分が人見知りであることは自覚している。
新しい人間関係を構築するのが不得意で、棘のない態度はとることが出来ても、姉のように人当たりのいい態度をとることが出来ない。明るく笑うことや人の輪に入っていくのも苦手だ。
それが今回の呼び出しに繋がったのだろうか。
だとしたらもうどうしようもないなと夏貴は半ば諦めモードに入る。
ああでもないこうでもないと考えていると、似鳥と凛の部屋についた。
深呼吸をしてドアノブに手をかけ、もう片方の手で3回ノックする。
どうぞという声はすぐに返ってきた。
(どうか、数で押されませんように―…)
意を決して、扉を開けた。
「失礼します」