第9章 手を差し伸べてくれたのは
「汐ちゃんはスピラノ高校の水泳部のマネージャーでね、凛とは落とした携帯電話を拾ったことがきっかけで知り合ったんですって!」
右隣では、都がその場面を想像しながらうっとりした表情を浮かべ、江が、汐ちゃん可愛いでしょ!と虎一に汐のことを自慢する。
左隣では、凛が照れくさそうに頬を掻いている。
「お父さん!私ね、お姉ちゃんが出来たって思ってるの!」
「江ちゃんともとても仲良くさせていただいてます」
ね!汐ちゃん!と江は汐の腕に抱きつく。
ね!と汐も江の言葉を肯定して、仲睦まじく頭を寄せあった。
江の隣では都が、お母さんも仲間に入れて!と羨ましそうに言うと、3人揃って、ねー!と楽しそうに笑いあっていた。
母も江も汐のことを受け入れてくれてよかったと凛は感謝する。
それに汐の松岡家への溶け込み具合は見事と言う他なく、改めて誰にでも好かれる性格だな、と凛はこっそり惚れ直す。
しかしとても賑やかなので〝女三人寄ればかしましい〟とはこの事か、なんて凛はその様子を見つめながら思った。
きっと父もこの3人を見たら同じことを言うだろう。
視線に気づいた汐は凛の方を向き、ふわりと笑顔を浮かべた。
守りたい、この笑顔を。
優しく微笑み返すと、凛は汐の左手に自分の手を重ね、父に向かってまっすぐ言った。
「親父。俺は今まで汐に助けられてばかりだった。汐は、俺が1番苦しんでた時にひとりじゃないって教えてくれて、正しい道へ連れていってくれた存在だ。今度は俺が汐を守って、手を引いていけるように頑張るから、だから、ちゃんと見守っててくれ」
凛の言葉が胸に響く。まるで父に誓いを立てているようだ。
凛の父を、そして凛を順に見た。
汐は気づく。2人は同じ目をしていることと空気を纏っていることに。それは、優しくて力強いルビーの瞳と包み込まれるような温かい雰囲気。
凛と虎一が似てきたと言われる理由がよくわかった。
汐は重ねられた手を握った。凛の手は温かい。
隣にいる凛がとても大きく頼もしかった。
凛は助けられてばかりだと言ったが、そんなことない。
凛の存在に助けられているのは自分の方だ。
今日凛に支えられたように、凛が躓いて転んでしまったら今度は自分が支えてあげたい。
しっかりと手を繋いで、お互いを支え合って進んでいきます。
凛が父に誓ったように、汐もまた凛の父に誓った。