第9章 手を差し伸べてくれたのは
「あっ!こらスティーブ。汐が潰れちまうだろ」
「うーん、流石にそこまで軟弱ではないとは思ってるんだけどな…」
降りろ、と言いながら凛はスティーブを持ち上げようとした。
しかし、そんな凛の手にスティーブはまたもや猫パンチをお見舞いすると、まるでここは自分の特等席だと言わんばかりに香箱座りで汐のお腹の上でくつろぎ始めた。
「ん…、スティーブ、やっぱきみちょっと重いかも…」
お腹にずっしりと重みを感じる。
横になっていた汐は起き上がってスティーブを腕に抱く。凛に対しての凶暴さが嘘のように大人しい。
暴れるどころか汐の頬にすりすりと顔を押し付け、ぺろりと涙の跡を舐めた。
「スティーブも心配してくれたの?ありがとう」
汐がそう声をかけると、まるで肯定するかのようにスティーブは喉を鳴らした。
後片付けを終えた都が3人と1匹の元へやってきた。
「汐ちゃん、もういいの?」
「はい。濡れタオルありがとうございました。後片付け何もお手伝い出来なくてごめんなさい」
「そんなの全然気にしなくて良いのに!」
申し訳なさそうに肩を落とす汐に対して、都は手を横に振りながら明るく元気づけた。
「あの、お願いがあります」
都に励まされた汐はここまでくる道中凛と話していた、あることをお願いしようと声を上げる。
「?どうしたの?」
改まった言い方でお願いがあると言われた都は、何事かと少し心配そうな表情を見せた。
「凛くん達のお父さんのお仏壇にお線香を上げさせていただけますか?」
「…!もちろん!ありがとう!」
全く予想外のお願いだったらしく一瞬驚いたような顔を見せたが、次の瞬間都の表情がみるみる明るくなる。返事は快諾だった。
虎一の写真が置かれた仏壇へ、4人は正座をして向かい合う。
4本の線香を上げ、都がりんを鳴らすと静かに瞑目した。
線香の煙が細く長く昇ってゆく。
「あなた。今日ね、凛が恋人の汐ちゃんを連れてきてくれて、一緒に晩ご飯を食べたの」
手を合わせ、都は嬉しそうに夫に報告する。
その左手の薬指には永遠の愛を誓い合った指輪がしっかりと嵌められていた。
「凛くんのお父様、初めまして。凛くんとお付き合いさせていただいている、榊宮汐と申します。年齢は18歳で、凛くんと同い年です」
汐は三指ついて凛の父へ自己紹介をした。
座礼をし、面を上げると虎一を見つめて笑顔を浮かべる。