第2章 三毛猫みーこちゃん
「ん」
「ありがと凛くん」
ベンチに座る汐に凛は自動販売機で買った缶ジュースを手渡した。
汐はそれを開けると、一口飲んだ。
「ほんと好きだよな、それ」
まろやか練乳仕立てフルーツオレ。
以前この公園に来た時、汐が好きだと言っていたジュースだ。
「うん!あたし牛乳好きなんだよねー」
毎度のことなのだが、どう考えてもそれは牛乳じゃねぇだろ、とツッコミを入れたくなる。
しかし上機嫌でフルーツオレを飲む汐に茶々を入れるのもなんだか悪い気がするから凛はあえてまた何も言わなかった。
それよりも凛には汐の膝の上に居座るみーこが気になった。
汐に喉を撫でてもらっていてみーこも上機嫌そうである。
上機嫌そうなみーことは対照的に凛はハラハラしていた。
みーこの爪が汐の制服に引っかかったりしないか。
制服が猫の毛だらけになったりしないか。
部活のジャージだったらこんな心配をしないで済んだだろう。
しかし汐が着ているのは制服だ。
世間一般で〝お嬢様女子校〟として有名なスピラノの制服。
とても高価なものであるということは凛でもわかる。
しかも最近まで気づかなかったが、黒いシャツの上に着ている白いジャンパースカートに繊細な花や蔦の模様が入っている。
そんな誰がみても高価な服に爪を引っ掻けて穴でもあけたら...と考えると凛は気が気でない。
「ん、凛くんどうしたの?」
「あっ、いや、みーこがお前の制服に爪引っ掻けたりしねぇかって...」
「あー、そんなの全然大丈夫なのに」
「そうか」
「ありがと、凛くん優しいね」
「お、おう」
凛も汐に続いて缶のスポーツドリンクを飲む。
缶に唇をつけながら横目で汐を見た。
膝の上に乗せたみーこを撫でながら、かわいいねーとかぬいぐるみみたいー、とみーこに話しかけている。
みーこの方もすっかり汐の膝の上でくつろいでいる。
「ねぇ凛くん。さっきも訊いたけどこの子、みーこっていうの?」