第2章 三毛猫みーこちゃん
「みーこ、俺用事あるから行くからな」
そう言って凛は餌を食べてる猫を撫でる。
まだ仔猫でふわふわした柔らかい毛並みが愛らしいメスの三毛猫だ。
「みゃー?」
甘えた鳴き声でスリスリと擦り寄ってくる。
餌よりも凛の方がいいらしい。
凛によく懐いている。
「こら、離れろって。早く行かねぇと待たせちまうだろ」
「みゃー...」
凛が行ってしまうと解ったのか、みーこは寂しそうに鳴いた。
「そんな寂しそうにするなよ。...明日また来てやっから」
名残惜しげに凛の足に擦り寄るみーこの喉を撫でてやる。
ゴロゴロと喉を鳴らすみーこに凛は頬を緩めると、じゃあなと声をかけて旧校舎を後にした。
人通りの少ない閑静な住宅街を凛は歩く。
昼間の残暑は厳しいが、夜になると気温も下がり過ごしやすい。
凛は立ち止まり、周囲を見渡した。
(汐のやつ、まだ来てねぇな)
凛は汐が来るのを待っていたい人だった。
彼氏のプライド、と言うべきか。
待たせることが嫌だということもあるが、それよりも自分の姿を見つけると笑顔で駆け寄ってくる汐が可愛くて仕方がないというのが凛の内心だ。
携帯電話で時間を確認しようとパーカーのポケットに手を突っ込んだ。
と、ふいに足元に何かが擦り寄る感覚がした。
「ぉわっ?!」
「みゃー!」
何事かと思い目を落とすと、鮫柄学園の旧校舎にいるはずのみーこが凛の足元にいた。
擦り寄られた拍子に踏まなくてよかったと凛は思った。
「みーこ!お前後つけてきたのか!」
「え、や...あの、あたし別に後つけてきたってわけじゃないんだけど...」
唐突にかけられた声に凛は驚く。
そのまま三毛猫のみーこを抱き上げた凛は振り返った。
「げぇっ汐!?」
まさかのホンモノのみーこの登場に凛は思わず本音が出た。
「ちょっとー、げってひどくないー?それよりも凛くん。その子、みーこっていうの?」
「みゃー」
汐の目線の先には、凛の腕の中にいるふわふわした仔猫。
ゆくゆくは汐にも会わせてあげようと思ってはいたが、こんなに予定が早まるとは想定外だった。
どうにも逃げられない状況だ。
凛は汐に三毛猫のみーこの真相を話そうと腹をくくった。