第6章 榊宮の姉と松岡の妹
「え!鮫柄ともやるんですか!?私、お兄ちゃんが鮫柄の水泳部にいるんですよ!」
「そうなの?名前は?」
鮫柄水泳部、江の兄の話で盛り上がるふたり。
江の口から〝お兄ちゃん〟という単語が出てきた瞬間、夏貴は眉を寄せた。
そんな様子にふたりは気づくことなく話は進む。
「松岡凛って言います!」
江の口から凛の名前が出てきて、ぷいと顔を背ける夏貴。目を見開く汐。
3人の間に微妙な沈黙が流れる。
江が、なにかいけないことを言ってしまったのかと考え始めた頃、最初に沈黙を破ったのは汐だった。
「…え、江ちゃんって凛くんの妹さん…?」
「そうです。汐ちゃん、お兄ちゃんと仲いいんですか?」
汐が兄のことを下の名前で君付けをしていることに気がついた。
学年も同じであるし、凛は誰とでも仲良くなれるタイプだ。それに、話した感じでわかる。汐も同じタイプの人間だ。
きっと汐は兄と仲がいいのだろうと江は思った。
「仲良いっていうか…、一応、でもないけどあたし、凛くんと付き合ってるの」
「…え!?」
汐のカミングアウトに江は大きな衝撃を受けた。
高校2年という多感な年齢であり、社交的な性格で顔も整ってる凛に彼女がいても何一つ疑問には思わない。
ただ、兄の彼女が今までほんのりと憧れていた人で、仲良くしていた後輩の姉であることに驚いた。
嬉しい反面、すこし照れくさい。
「ごめんね、そういえば凛くん言ってた。妹がいて名前が〝江〟っていうって」
以前凛と互いの妹弟についての話をした。
その時に凛は〝仲良くなれる〟と言っていた。
その言葉通り、初対面だとは思えない位江と打ち解けることが出来た。
「お兄ちゃんにこんなに可愛い彼女がいたなんて…!」
あまりの衝撃に思わず本音が出てしまった。
凛と汐がふたりで並んでいる姿を想像する。
江の頭の中でのふたりの姿はとても絵になっていて惚れ惚れしてしまう。
「ありがとう。なんかごめんね」
「いえ全然!むしろ嬉しいです!」
ここから汐と江、女ふたりのガールズトークは止まらなかった。
早々に話に入ることは不可能だと判断した夏貴は、諦めたように苦笑しながらふたりの後をついて行った。