第6章 榊宮の姉と松岡の妹
「江さん、僕の姉さんです」
「初めまして。夏貴の姉の榊宮汐です」
軽く会釈をして汐は江に挨拶をした。
可愛らしさの中に上流家庭の淑女が持ち得る品を感じて思わず江は見惚れてしまう。
「姉さん、この方は江さんっていって佐野中の1つ上の先輩。途中まで帰り道が同じだからたまに一緒に帰ったりしてたんだ」
「そうなんだ。夏貴と仲良くしてくれてありがとう」
「わっ私こそ、なっちゃんと仲良くさせていただいてありがとうございます!」
学年問わず女子生徒にとても人気がある夏貴であるから、たまにであっても登下校を共にするだけでとても羨ましがられたことがあった。
そういうこともあって江は〝夏貴と仲良くさせてもらっている〟という感覚だった。
「夏貴、〝なっちゃん〟って呼ばれてるんだ」
いたずらな笑みを夏貴に向けた。普段汐以外からの〝なっちゃん〟呼びに眉を顰める夏貴がその呼び方を良しとするなんて珍しい。
「江さん、僕と仲良いことにお礼なんていらないっすよ。僕は江さんと話してるのが楽しいんですから」
夏貴からすれば、姉の汐以外の女子の中で唯一話していて楽しいと思える存在が江だった。
不思議と江には繕わない自分でいれた。
「そっか。うんうん。ふたりとも仲良いんだね。じゃ、帰ろっか」
「江さん、よかったら送っていきますよ」
乗っていた自転車から降りて夏貴は声をかけた。
歩きだそうとした江は拍子抜けしてしまう。
「そんな!私は大丈夫…!それになっちゃん達遠回りになっちゃうよ。お姉さんにも悪いし…」
懸命に手を振りながら遠慮をする。
そんな江にやわらかな笑顔を向けながら汐は言った。
「あー、汐でいいよ。それにさんづけじゃなくてもいいよ。せっかくだから送らせて?江ちゃんとも話してみたいし!」
まるでアフタヌーンティーに誘われたような気分だ。アフタヌーンティーに参加したことがなくても、誘われたらこんな気分になるんだろうなと江は思う。
「すみません、ありがとうございます」
せっかく汐がそう言ってくれたのだからお言葉に甘えることにした。
自分と話したいと言ってもらえたことが素直に嬉しい。
「そんなに気にしなくても大丈夫だよー!じゃ、いこっか」