第4章 硝子瓶の金平糖 vol.1
【キス魔のはなし】
「凛くんってほんとにキス魔だよねー」
なんの突拍子もなく彼女はそう言った。
彼女―...汐は横目でいたずらな笑顔を俺に向けてくる。
赤紫の瞳が無邪気に揺れている。なんか楽しそうだな、こいつ。
「前も言ったと思うが、俺はだれかれ構わずキスしてるわけじゃねえよ」
そもそも男子校だし、だれかれ構わずキスしてたらある意味地獄絵図だろ。
「まあそうだよね。あーでもあたし、遊びで璃保とちゅーしたことだったらあるよ」
俺にキス魔って言うけど、汐も十分キス魔じゃね、とか思ってしまった。
「汐、たまにはお前からキスしてくれよ」
俺の中に少しだけ嫉妬心が芽生えた。朝比奈のやつに唇あげんじゃねーよ。
って、女に対抗意識燃やして何になるんだって話だけどな。
「えっ、いいよ...!じゃあ凛くんちょっと縮んで!」
汐の背じゃ俺に届かない。
一生懸命に、縮んでー、って、俺の頬に触れようとする汐が可愛くて思わずにやけそうになるのを我慢して俺は汐がぎりぎり届くところまで屈んだ。
俺の頬を汐が遠慮がちに触れた。
ゆっくりと汐の顔が近づいてきて俺は目を閉じた。
汐の唇が触れるのを感じた。ふわっと溶けて、柔らかい。
目を開けると互いの鼻がぶつかる距離に汐の顔。恥ずかしそうに頬を染めて、本当に可愛い。
「お返しだ」
今汐がしたようにキスを返してやる。
「ふふっ...やっぱり凛くんキス魔ー」
照れたように笑う汐。
やっぱ可愛いな、こいつ。