第3章 凛と汐のとある休日
「お待たせしました」
店員が注文した品を届けにきた。
なにか言ったわけでもないのにケーキセットを汐の前へ、コーヒーを凛の前に置いて店員は戻っていった。
「美味しそう!」
ミルクレープを前に満面の笑みを浮かべる汐。
食べ物を前にして小さい子のように目を輝かせている汐は本当に可愛いと凛は思う。
「食えよ」
「いただきまーす!」
「あ、その前に」
フォークを持つ汐に携帯電話を向ける。
ケーキを前にして喜ぶ汐が可愛くて写真が撮りたくなった。
「えー、凛くん写真撮るの?いいよ、ちょっと待ってね」
そう言って汐は前髪をちょいちょいと直す。
ぱっと顔をあげて微笑んだ。
(やっべ、すげーかわいい)
携帯の画面の中で微笑む汐が可愛くて思わずにやける。
凛くん、と汐の声が聞こえてそうな自然な笑顔だった。
「ねえ凛くんあとでプリクラ撮ろうよ」
「プリクラ?」
「うん」
プリクラ、存在は知っているがあまり、いやほとんど撮ったことが無い。
記憶の中では数年前に妹の江と撮ったきりだ。
「…やだ」
「えー、なんで!」
ああいうのはどんな顔をして撮っていいかわからない。
それに凛の中では〝プリクラ=女子〟が成り立っている。
「ああいうのは女子同士が撮るやつじゃねえのか?」
「確かに男の子同士では入れないけど…カップルだったら入れるよ。ね、凛くん。撮ろ?おねがい」
うっ、と凛は喉を動かす。
狙ってやっているわけではなさそうだが、完璧な上目遣いおねだりだ。
こうなってしまえばもう凛はノーと言えない。
「…しゃーねぇな」
「ほんとに?やった、ありがと凛くん!」
汐の喜ぶ顔が可愛くて仕方が無い。
惚れた弱みだと凛は思った。
しかしそんなことも彼女を眺めているとどうでも良くなってしまう。
(ベタ惚れじゃねえか、俺…)
まあ、それでもいいか、と凛はなにも入れていないブラックコーヒーに口をつけた。