第3章 凛と汐のとある休日
「ケーキ楽しみだなー!」
案の定汐はケーキセットを頼んだ。
メニューを見ながらあれもおいしそうこれもおいしそうと悩んでいる汐を見てやっぱり女子だ、なとと凛は思った。
「凛くんコーヒーだけでよかったの?」
はしゃいでいるのは自分だけかも、と汐は思って凛を気遣う。
「ああ」
「...なんかごめんね?」
自分だけ食べることに少し罪悪感を感じたらしい。
しかし凛はそんな汐に対してくしゃっと笑いかけた。
「気にすんなって。俺はお前がもごもごケーキ食ってるとこ見れればそれでいいから」
「そう?」
「ああ、だからそんなシケたツラすんな」
お前はにまにましながらケーキ待ってろ、と凛は汐の頭を軽くなでた。
汐はなんだかあやされている気分になったが、凛の手が優しくて嬉しくなり、ありがとうと言ってふわりと笑った。
「つかお前、そんなに食って部活の奴らとかによく食うなとか言われねーのか?」
「あー全然言われないよ!むしろ〝汐それだけでいいわけ?〟とか〝みーこそれしか食べないの?〟って言われる」
スピラノ水泳部イコール長身の女傑。またの名を大食い美女集団。
彼女たちの昼食を見るといつも大盛りだった。
「ふと思ったんだがスピラノって昼飯どうしてんだ?俺んとこは全寮制だがお前んとこは違うだろ」
「うちはねーフードコートみたいな場所があってこれで食券買うの」
「ん?なんだそれ、カードか?」
汐が見せたのはなにやらクレジットカードのようなものだった。
〝St.Spillerno G.S Multi Card〟と書いてあった。
説明によると、クレジット式かチャージ式か選ぶことができ、タッチで学食や購買、校内に設置された自動販売機の精算ができるらしい。さらにロッカーのカードキーも兼ねているそうだ。
「なんか、すげえ進んでんな...」
「ねー、ほんと」
スピラノがお嬢様学校で有名な所以がよくわかった気がした。
制服、校舎、設備、極めつけはこのカードの制度だった。
同じ私立なのにこの違いはなんなのだ、と凛は思った。
実行すると不審者確定だが、1回スピラノの校舎内を探索してみたいと思った。
たしか入ってすぐに白亜の聖母マリア像があった気がした。