第3章 凛と汐のとある休日
「面白かったね、サンタマリアの犬!」
「おもしろかった…っていうのか?あれ」
映画の上映が終わり、ふたりは映画館のある4階をあとにして3階へ移動した。
「面白かったっていうよー!」
「そ、そうか…」
「あたし見たよ」
「なにを」
汐が繋いだ手に少しだけ力を込めたことに凛は気づいた。
一瞬だけ立ち止まると汐はいたずらな笑顔を咲かせた。
「映画の途中で凛くんが泣いてるの!」
「な、バカ、泣いてなんかねぇよ!」
「えーうそ。泣いてたよ」
「泣いてねえ!」
凛はそういうが、実際は泣いていた。
しかしそれを素直に認めるなんて恥ずかしすぎるから全力で否定する。
「顔赤い。照れてるの?凛くんって泣き虫さんなんだね、可愛い」
にっこりと微笑む汐に凛は何故か〝お姉さん〟を感じた。
「別に照れてねえし泣き虫でもねえっての!つーかお前俺のことからかうのは俺の身長超してからにしろ」
「えっ、それはぜったい無理だよーあたし中学入ってからほとんど身長伸びてないし」
中学入ってからほとんど伸びていない。逆をいえば小学6年生のときにはこれくらいの身長だったということだ。
小6のときに145cmだった凛からすれば少し気に食わない話だった。
「じゃあ食った分はどこにいってんだよ」
「えーどこだろ、お肉になったのかな。実はね、身長3cmくらいしか伸びてないのに体重が10kgくらい増えたの」
ほんとおデブ、と汐は言っていた。
今体重何kgか訊こうとしたが訊かなかった。凛からしたら4年間オーストラリアで過ごして、そっちの女性の体型が基準になるから汐は小柄で華奢な女の子だと思う。
それに抱きしめた時に少し肉があった方が柔らかくて好きなのだか、それも言わなかった。
「ねえ凛くん」
「なんだ?」
「あたしお腹すいちゃった」
「映画見てるときポップコーン食ってなかったか?」
「あ!あれは別腹!」
いっぱい食べるキミが好き〜、という歌を思い出した。
そんなに食べると太るぞ、など思ってもないことを言って汐をからかってやろうかと思ったがそれはまた別の機会にとっておこうと凛は思った。
「ん、じゃあそこのカフェ行くか?」
「行く!」
ケーキセットの看板が目についたのだ。見た瞬間によさそうだと思った。
ケーキセットの看板に目を光らせる汐の手を引いて凛はそこのカフェに入った。