第3章 凛と汐のとある休日
「そろそろ始まるな」
「そうだね」
だんだんと周囲の席がうまってきていた。友達同士やカップルなど、さまざまな人がいる。
「よくそんな甘いもん食えるよな」
凛は汐がつまんでいるキャラメルポップコーンに目を落とす。
ついさっきフード・ドリンク売り場で汐がポップコーンを食べたそうにしていたから凛が買ってあげたものだった。
「おいしいよ!凛くんありがとう!凛くんも食べる?」
「いや、俺はい...むぐっ...!」
手のひらに乗せたポップコーンを凛の口の中に押し込む汐と、水気のないものをいきなり口の中に突っ込まれ咳き込む凛。
「汐てめー無理やり人の口の中にポップコーンねじこむなよ...!」
「凛くん歯とげとげで鋭いから指痛いー」
「なんで俺が文句言われなくちゃいけねえんだよ」
そういいながらもいつも通りゆるい汐にすこし頬がゆるむ。
「汐、ほっぺ膨らませてみろよ」
「え?こう?」
ぷう、と訳も分からず頬を膨らませる汐。凛はその瞬間携帯を取り出してカメラのシャッターを押した。
「はい、食い意地張って頬袋に餌をつめこむリス」
「な...!にそれー!?」
「ポップコーンの仕返しだ」
「えー、やだ!消してー!」
「やだね」
横から文句を言ってくる汐をスルーしつつこっそり今撮った写真を保護設定にした。
携帯の中の画像フォルダに1枚1枚汐の写真が増えていくことが嬉しかった。
これからもっともっと増えていくだろう。思い出とともに。
ふいに照明が落とされていった。上演開始時間だ。
凛は携帯がサイレントモードになっていることを確認するとポケットにしまった。
どんどん暗くなっていく中隣の汐を見た。
汐は凛の視線に気づくといたずらな笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
暗い中で見ると汐の瞳は深い薔薇色だった。
普段のローライドガーネットの瞳も好きだが、凛はそれ以上にこの深い薔薇色の瞳が好きだった。
「汐、」
真後ろの人から見えないように少しかがんで、凛は汐にキスをした。
軽く唇が触れるだけのキスだったが、凛は少し唇が濡れたのを感じた。それと同時に館内は真っ暗になる。
汐がこっそり耳打ちをしてきた。
「もう、凛くん、グロスついちゃうよ?」
真っ暗で汐の表情がわからないのが歯がゆい。
これから始まる〝サンタマリアの犬〟いったいどんな映画なのだろうか。