第1章 着火
知らなかった。
リオンがそんな事思ってたなんて。
泣く事はあたしには出来ないけど、心の奥が震えているのはわかった。
「そうか………あたしが勝手にやってきた事だから、迷惑だと思ってた」
「そんな訳ないだろう。それに、名前は自分以外の為に頑張り過ぎている。僕の件も、僕の為にやってくれたのだろう?」
「そのつもりではいたけど、それこそが、エゴじゃねーのかなって思って「名前、もう、自分の為に生きていいんだぞ?」
「え………」
あたしとリオンの間に、暖かく優しい風が横切った。
何故だろう。そんなはずはないのに、泣きそうな気持ちになる。
「あたしは、みんなの願いが叶っていけばそれでいい。それが、あたしの幸せだ」
「本当にそうか?そうだとしても、誰かの為といって自分自身を犠牲にする名前を見ているのは……辛い」
「………」
何で、お前が泣きそうなんだよ。
お前がそんな顔すると、クリスに申し訳ねーじゃんか。
「名前が傷付く事で、悲しむ奴もいる。僕もその1人だ」
リオンは続ける。
「自分の為に生きる事が、自分を幸せにする事でもあるんだ。名前が幸せだと、周りも嬉しくなるし、幸せだと感じる。自分の為に生きる事は、周りをも幸せにしていくんだ。だから……もう、自分の為に生きてもいいんだ」
「………っ!」
忘れていた。
色々な人から支えられていた事を。
多くの人から愛されていた事を。
そうだよな、あたしも、大切な人が悲しんでんの見たら、悲しくなるもんな……忘れていたよ、そんな大切で簡単で当たり前な事を。
「いいのか?……本当に、心の底からやりたい事して、自分の気持ちに素直になっても」
「あぁ、いいんだ。好きな事やっても、やりたい事やっても。自分の心に正直になっていいんだ」
「………あぁ!」
あたしは、そのまま空を見上げた。
どこまでも続く広い空のように、あたしの心も、広がっていった。