第3章 お前がいない世界を体験してみた
「おはよう、エミリオ」
「あぁ。随分うなされていたが……悪い夢でも見たのか?」
エミリオ、もといリオンの手が、あたしの頭を優しく撫でてくれた。
手のぬくもりから、あたしがここにちゃんと戻ってこれた事を実感出来た。
「お前がいない世界を体験していた」
「何でまたそんな事を……」
「あたしは、多分まだ恋愛の意味での好きという感覚がよく分かっていないと思う。だから……というのも変かもしれないが、エミリオがいない世界であたしがどのように感じたかどうかで、自分の気持ちを確かめたかった」
「それで?僕がいない世界はどうだった?」
「少なくとも、今のあたしを形成するには、誰一人欠けてはいけないというのを実感した。それと」
「お前がいない世界では、生きた心地がしなかったし、心に穴が空いたようだった」
知らない間に、あたしの中でリオンがいる事が当たり前になっていた。
リオンがいないと、こんなに辛くて寂しいものだと思わなかった。
そう思っていると、エミリオは優しくあたしを抱きしめてくれた。
「僕は今、名前と共にここにいる」
「……うん」
「だから、僕の事でもう悲しませたりなんかしない」
「……うん」
「ずっと側に、一緒にいるからな、名前」
「……うん」
久々に泣いた。甘えた。
でも、エミリオと一緒にいて、それが悪い事ではないと知った。
十分に泣いて甘えた後、二人で朝食を取りに行く事にした。
こんなに好きだと思わなかった。
こんなに辛いと思わなかった。
こんなに寂しいとは思わなかった。
いかに支えられてきたかを知った。
いかに愛されていたかを知った。
お前がいない世界では、多分あたしは生きていけない。
END