第9章 神さまの目にも涙
『おぎゃあ!おぎゃあ!』
『可愛い女の子ですよ』
抱きあってむせび泣く男女
伸ばされる温かくて優しい手
その柔らかい胸に抱かれて
その逞しい手に頬を撫でられて
『ねえ、今、この子笑った』
『え?……ああ、本当だ』
幸せな眠りのなかに
すこしずつ落ちていく。
「ちょっと、あまり
寄らないでくださいよ。
お前の馬鹿が移ったら
どうするんだ馬鹿」
「お前が邪魔で愛しい
寝顔が見えないんだよ!
それにバカって言うほうが
バカなんですう~!!」
「ほらその発言が既に馬鹿だ」
私の両親にも
医師たちにも
見えなかった彼らが
分娩室のすみっこで
相変わらず喧嘩していたことは
私も、誰も、知らない。
過ぎ去りし日の
鬼と神獣の、思い出──
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