第8章 【団栗ころころ】
落とすキスが
零れてしまわないように
僕は君の頬を包みこんだ。
「……さっきは痛くしてごめんね」
ちょっと赤くなってしまった
チークの部分に唇を寄せると、
なんだかしょっぱい味がする。
いやだなあ。
そんな風に泣かないでよ。
「僕、女の子泣かせるのは
趣味じゃないんだよなあ」
どうして? なぜ君が泣くの。
泣きたいのは僕の方だよ。
だってそうだろ──
君は、もうこの世にいないんだ。
鏡ノ塔に映り込む紗英は、
薺ちゃんの身体を借りなければ
話すことも、触れることも
何もできない。してやれない。
思念っていうのは悲しいね。
こんなにも僕らは愛し合って
お互いを、求めているのに。
「ねえ……泣かないで。
僕を見てよ、ほら、見て?
僕、こんなにも君が欲しいんだ」