第8章 【団栗ころころ】
「君の魂は紗英の匂いがするね」
唇が触れそうな距離から
小首を傾げて言い聞かせる。
「彼女と同じだ」
「違、っ……私は、」
「同じさ。どちらも
僕の愛した女性だよ」
尚も反論しようとするものだから、
その桜色にキスをして
言葉を封じてやった。
君はビクッと肩を震わせて
それから、ちょっと怒ったように
椅子から立ち上がる。
おお、威勢のいいこと。
まるで誰かさんみたいだね。
「君とあの鬼に何があったか、
そんなの知りたくもないけどさ」
許さないよ。僕は。
「君は紗英だ。僕の愛しい人だ」
どれだけの時が移ろおうとも
それだけは絶対に変わらない。
「薺……こっちにおいで。
ほら、……僕で愛してあげる」