第7章 【パンチヒーロー】後編
今ならはっきりと分かる。
あの夜、鬼灯様がどうして
カノジョを抱いたのか
痛いほど、理解できる。
代わりでもいい
忘れる為でいい
それでもいいから──
紗英さんの代わりでも
いいから、だなんて。
「鬼灯様、……私じゃ
…………だめですか?」
最後はほとんど声にならなかった。
言ってしまって直ぐに
差し出がましいことをした、
とひどい後悔に襲われる。
淫らな、尻の軽い女だと
思われてしまっただろうか。
そもそも、ついさっきまで
男に犯されてたくせに・・・
「あ、あの、わ……っ
私ってばなんてこと……
すみません、忘れてくだ」
「忘れてあげません」
「……っ!……鬼灯、様」
狭く、湿度の高い
風呂場の景色が
上下逆さまになった。
重なる熱はどこか懐かしい。
鬼灯様の薄くて、
ちょっと乾燥した唇。
地獄の鬼に似つかわしい
熱く燃えるような舌。
「本当に、抱きますよ……?」
ゆっくりと一度だけ頷くと
降り注いだのは、彼の、
優しくも激しい口付け。