第7章 【パンチヒーロー】後編
報われない恋を
させてしまったと思う。
けど、これは憐憫じゃない。
この感情はそんな冷たくて
悲しいものなんかじゃ、絶対ない。
「鬼灯様……覚えていますか」
幼い頃、こうして
あなたに何度も
おぶっていただきました。
その背中がとても温かかったこと、
ようやく思い出すことができた。
「ええ、もちろん。……覚えています」
貴女が幼い頃、こうして
何度もおぶって歩いたこと。
私の背を必死に掴む
小さな手が、とても
暖かく心地よかったこと。
「覚えています……それに、
忘れたくありませんでしたから」
溢れ出す。堰を切ったように。
私は、私。
前世の自分が誰を好きだろうが
今尚求めているのが
白澤様だったとしても
それは、カノジョの話。
私は、──鬼灯様に恋をした。
「薺さん……貴女、まさか」
「いえ、取り憑かれてないです。
紗英さん……の思念は、まだ
あそこに留まったままだと思います」
だって、カノジョはまだ
白澤様のことが好きだから。
「はあ、なるほど……しかし
これは何とも稀有な状況ですね」
「どうしたものやら」と
呟いて頬を掻く彼の耳が
照れた桃色に色付いていた。