第6章 【パンチヒーロー】前編
「あ、れ……ど、して」
何故、彼がここに?
今まで、私の誕生日だろうと
ひどい喧嘩をした時だろうと
自分から訪ねてくることなんて
一度もなかったのに。
「メール」
彼は極々短く、言い放った。
「メール?」
返す私の声は、震えている。
「俺、何度も送ったよな。
お前全然返事しねえし、
何してんのかなーって思って」
「そ……それは、」
地獄の鬼と前世の自分の
お墓参りに行ってました。
言えない。
言ったところで、きっと
信じてもらえないと思う。
不穏な沈黙だけが続いた。
やましいことはしてない。
してないはずなのに、
はっきりと断言できない。
それもこれも……全て
あのおかしな夢のせい。
「なーずーなァ……お前
俺に黙って何、してたの?」
明らかに怒気を孕んだ
彼の、生温かい息が、
私の首筋をゾロリと舐めた。