第4章 鏡ノ塔
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結局、薺に取り憑こうとしている
紗英の思念を成仏させることが
出来ないまま鬼灯は墓場を去った。
『また、会いに来ます。
いい子にしてなさいよ』
昔から変わらぬ鬼灯の母親節に、
少しだけ紗英が微笑んだのが
彼にとって唯一の救いだった。
紗英の思念を取りこんで
一時的に意識を失っている
薺を車に運んでやり、彼は、
ぼんやりと夜空を見上げる。
薄く開いた唇から
白煙が、ゆらり。
このどうしようもなく
辛い恋に身を落としてから
増えてしまった煙草の数。
現世に合わせて咥えている
この巻煙草も、さっきから
何本吸っていることだろう。
「……困りましたね」
思念として存在してしまった紗英と、
転生したとはいえ紗英の魂を持つ薺。
どちらも鬼灯の愛した紗英である。
この奇々怪々にして
珍妙な状況には、さすがの
鬼灯も頭を抱えるのだった。