第4章 鏡ノ塔
鬼灯は過去に一度だけ、
紗英の墓参りに
訪れたことがある。
それは彼女が地獄を去ってから
四十九日目のことなのであったが、
白澤も同じことを考えたのだろう。
先客として紗英の墓前に座り
ひとり晩酌をする白澤は、
声も上げずに泣いていたという。
あれだって一応、神だ。
神が愛のために流す涙を
ズケズケと邪魔するほど、
鬼灯も不粋な男ではない。
恋敵ではあれど
同じ女を愛した。
彼女を失って、きっと、
あいつも同じように
深く深く傷ついている。
音を立てずに踵を返した
鬼灯は自らの想いに
何重もの鍵をかけて
それから、二度と紗英の墓を
訪れることはしなかった。
鬼が初めて神獣に見せた
彼なりの優しさである。