第4章 鏡ノ塔
ツアトに引き摺り込まれた際、
その存在が消滅してしまう前にと
緊急に転生の処置をした紗英。
彼女の魂は薺として無事に
生まれ変わったのだが、
思念はまた別の話である。
人の抱く強い想い──
恨み
執着
愛情
故人の残した強い想いは
時として、肉体が朽ちても
現世に留まることがある。
地縛霊といえば聞き覚えが
ある人もいるだろうか。
紗英が唯一残したのは
紗英で在りたいという
【未練】
それが現世の、しかも
彼女の墓があるここに
留まってしまったのは・・・
「まだ……あいつが
忘れられませんか?」
無表情で告げる鬼灯の手には、
紗英の墓に供えてあった
美しい簪(カンザシ)が握られている。
それは定期的に紗英の
墓参りに訪れている
白澤が彼女の為にと、
自らの神気を篭めて作った
供物(おくりもの)だった。