第4章 鏡ノ塔
「薺さん。ちょっと宜しいですか」
私が声を掛けると、
ふたつの瞳がクルリと振り向く。
「何ですか?」
小粋な抜き襟や
艶やかな簪(カンザシ)
地獄にいた頃の面影は
今の彼女にはないけれど、
コンビニの制服を纏う姿も
「(これはこれで有りだ)」
要は可愛らしかった。
それに何より、彼女の根底は
あの頃と何も変わっていない。
清らかで美しい、彼女の──
紗英の魂の匂いがする。
「少し付き合って欲しいのですが」
「え……付き合うって、どこへ?」
「それは着いてからの
お楽しみということで」
「は、え、ちょっと……!」
コンビニバイト初日を終えて、
訝る彼女を誘い出した先。
そこへ向かうのには少々
抵抗があったが、どうしても、
確かめたいことがある。
困惑顔でいる細い腕を
掴んで、半ば無理やり
夜の現世へと繰り出した。