第12章 愛するための勇気
ひえっひえっ、と
黄色い歯を覗かせる
その恐ろしい見た目に
薺は言葉も表情も
すべて失っていた。
彼女の隣にいる仏頂面は、
……涼しげな顔で
澄ましてやがる。
まあ、予想通り。
「お前……このアタシに、何か
頼みごとをしようってんだねェ」
独特の訛りで喋る
それは、まず真っ直ぐ
僕を見つめて言った。
腐っても神、か
僕が自分と同類だってことに
こいつは気付いているらしい。
「ああ、そうさ。お前に
頼みがあってここへ来た」
負けじと濁った瞳を
睨み返して言葉を紡ぐ。
全身が心臓になったみたいに
震えて、指先が冷たくなる。
「魂の、」
思わず声が詰まる。
「──分割だ」
自分の声が、やけに
はっきりと聞こえた。