第10章 花割烹狐御前
正直ぶったまげた。
何でってそりゃあ、
地獄一の冷血漢で通っとる
旦那が顔を歪ませたからよ。
それも、怒りや
憎しみの類じゃなく
まるでその冷徹な心が
痛くて仕方ないみたいに
つらそうな顔をして。
「以後気をつけます」
「なんでお前が謝るわけ?
……気色悪い真似すんなよ」
白澤の兄さんのそれは、
どうやら分かりにくすぎる
謝罪と感謝だったらしく
「彼女を傷つけてんのは
いつだって僕だ。ごめんね」
わしに頭を下げて
申し訳なさそうに笑う。
わしゃァ、とんだ
勘違いをしてたのかも
しれないのう……。
感情が欠落した鬼と
色狂いの獣だとばかり──
旦那方も、愛のためなら
そんな顔したり必死になったり
わしらと何も変わらんのですね。