第10章 花割烹狐御前
取っ組み合いはやめたが
まだまだ険悪な御人たち。
場の空気に耐えかねて
煙管をぷかぷかり、
吹かせばまっちろい煙が
困ったような顔して
旦那方の間を彷徨う。
かたや、この地獄を裏から
牛耳っ……おまとめになる
鬼神で官吏の旦那様。
対するは、中国は桃源郷
あの世の楽園にゃ欠かせない
聡明で博愛的な神獣様。
こりゃ世の女子(おなご)が
放っとかないわけじゃなァ。
悔しいが納得。
「薺ァ、お前さんもっぺん
ここへ戻ってきたらどうじゃ」
お二方に惚れ込まれとる
お前さんなら、
あっという間に花魁じゃて。
ついつい金の匂いと恋慕に
流されて口走ったもんだから、
薺の返事を聞く前に
(やけにデカい)
伊万里焼の皿が
わしの顔面にめり込んだ。
すこぶる痛かった。