第33章 たった一人の想い人【半田/N】
『水に溶かさないと……』
半田に見せた後、悠鬼は水が張ってある桶にその紙を入れて溶かそうとしたが、手を掴まれて引き寄せられる。
「それ貰って良いか?」
『……清くん』
「悠鬼の真っ直ぐな気持ちを俺が傷付けて無碍にした。悪かった……」
『やだ、謝らないでっ……』
「俺も返事を返すから」
以前振り払った手を半田は今度はしっかり握り締め、悠鬼が書いた紙人形を受け取ると、何も書いていない新しい紙人形を通じて相手への気持ちを正直に記す。
【俺の彼女として隣に居て欲しい】
「……って俺が思ってたらダメか?……こんな俺がお前に相応しいとは思えないが」
『清くんの方が私には勿体無いわよ……周りの目なんて関係ない、一番大切なのはお互いの相手を想う気持ちだけだと思うから』
「悠鬼……んっ」
紙人形で顔の横に壁を作れば、悠鬼はそれに隠れて半田の唇に口付けを落とす。
顔を離すと彼は耳まで真っ赤に頬を染めて、恥ずかしそうにグイッと顔を背けてしまう。
『清くんの人形は私が貰って良い?』
「水に溶かさないのか?」
『清くんからの初めての恋文だもの消さずに欲しいわぁ』
「……あぁ、俺も持ってる」
『ありがとう、お慕いしています……清くん』
「さっき読んだから……態々言うな」
『ふふっ……きちんと言葉でも伝えたかったのよ』
「……俺も」
『はい』
好きな人に贈って好きな人から頂いた、初めて想いが通じた文。
短い文でも私達の気持ちを伝えるのには十分で、とても縁起の良い物だと思えるから、普通に手紙に書くよりずっと素敵だと思う。
清くんが自分に自信を持てない以上、今は堂々と隣を歩けないけれど、いつか壁を作らずに人と距離を置かずに済む様になったら、私はずっと貴方の傍に立って居たいわ。
悠鬼と半田は別々に自分の班へ戻って行った。
「悠鬼!恋愛成就のお守り買おうよ!」
『私のは買わなくて良いから、私が買って贈るわよ?』
「えっ、何で!?」
『えっと……それは……』
「何かあったの!?教えて!教えて!」
『何色のお守りが良い?同じ物でも色んな色があるのねぇ』
「話し逸らさないでよぉー!」
『やっぱり桃色が良いと思うの!』
「悠鬼~!!」