第33章 たった一人の想い人【半田/N】
半田が自宅に帰って居間に入ると、悠鬼が卓袱台で習字の練習をしているのを目にする。
笑顔で迎えてくれたが学校での事を思い出すと、謝れずには居られず頭を下げて謝罪をする。
当の悠鬼は謝られている理由が解らないので深く詮索せず、今書いていた字を半田に見せようと半紙を持って自信有り気に向ける。
半田はスポーツバッグを下して悠鬼の後ろに回ると、悠鬼の持っている半紙を置いて筆を持ち、相手が書いた上から指摘し始める。
悠鬼は半田とのそういう時間もとても好きで、彼の顔を見上げているとそれに気付いたのか顔を向けると視線が合ってしまった。
顔を赤くして背けてしまった彼に少し残念そうにするが、それも愛おしいと思うと自然と微笑んでしまう。
『記憶喪失だったって本当?』
「な、な訳ないだろう!」
『……でもいつかはそうなれたら嬉しいわ』
「そうって?」
『ふふっ、内緒よ』
いつかは口付けを出来る関係になれたら嬉しい。
清くん本人から、本心で受け入れてくれたらとても幸せね。
修学旅行の日が近付いて来た悠鬼達の学年は、一緒に行動するグループを決めていた。
悠鬼の方も半田の方も何気にスムーズに決まり、悠鬼も安心して楽しそうにして居たがこういうイベントはやはり好きな人と過ごしたもの。
一時間でも良いから一緒に回れないかと、半田の方を見た悠鬼はあまり前向きではない彼に苦笑いしてしまう。
「悠鬼?何処回りたい?」
『一ヵ所でも良いから同じ場所回りたいわねぇ』
「同じ学年だったの!?誰!?」
『だから教えないわよ』
「好きな人と回りたいよねぇ……何処のグループの人?回る場所見せて貰おうよ!」
『そ、そんな!良いわよ!……教えたら分かっちゃうじゃない!結構です!』
「もう頑固だなぁ……好きな人と楽しい学校生活送りたくないの?修学旅行は学校の大イベントだよ!」
『……送りたい』
「じゃあ好きな人は誰なの!!応援するから!」
『声が大きいってば!』
「えぇー!彩條さんに好きな人がいるの!?」
「やっぱり本当だったんだ!」
「凄ぇショックッ!!」
『えっ!?……まぁ!?やだ……』
「あちゃぁー」