第33章 たった一人の想い人【半田/N】
半田を見付けると、彼は校舎を出て窓の下で市販のプリンを落としてしまった現場を目撃してしまう。
上を見上げると悠鬼が窓から顔を出して笑っているのを見た半田は、顔を真っ赤にして背ける。
周りに誰も居ない事を確認した悠鬼は、窓から外に出て半田の隣に座る。
「何で来たんだ?」
『そういう事じゃないのは解っているけれど……はい、お弁当です』
「えっ?……調理実習で作ったヤツ」
『一緒に作るのが楽しいのに、結局私一人で作った様な物だから……お家の物とあまり変わり映えしないけれど、どうぞ』
「否、落ち着く……いただきます」
『私もいただきます』
悠鬼は半田の母 えみに料理を教わっているので、半田にして見ればお袋の味同然になる。
それを嫌がられて追い出されるかと思って居たが、邪険にしない半田に気を良くすれば悠鬼も隣で食べる事にする。
『……ふふっ……』
「な、何笑ってるんだ!……さっきの俺が可笑しかったからか?」
『清くんと学校でご飯を食べるのも、ちゃんと一緒に居られるのも久し振りだと思って……』
「…っ…たまになら良い……」
『えっ』
「ここは……人が来ないからたまに来れば良いだろ」
『……清くッ……えぇ、傍に居させて下さい……』
馬鹿にしているのではなく一緒に居られる事を嬉しいと思ってくれている悠鬼を突き放す事等出来ず、半田は顔を背けたまま小さくここに来る事を許可した。
やっと同じ空間で一緒の時を過ごす事が出来るのだと察した悠鬼は、半田の肩に頭を寄せると気付かれない様に少しの間涙を流した。
(ね、寝るのか!?どうする?……起こすべきだよな?授業始まるし……でももう少しこのままでもっ……)
それから暫くして、悠鬼は廊下で半田がスカートを持った生徒会の面々に、追い掛け回されているのを目撃して不思議そうに首を傾げる。
『清くん?……相変わらず脚速いわねぇ』
(暢気にそんな事言ってる場合じゃなーい!)
廊下で擦れ違い様にそんな言葉が耳に入った半田は、必死に逃げながら感心している悠鬼に心の中で叫ぶ。
「彩條さん!半田くん見なかった?」
『相沢くん?これはいったい……』