第33章 たった一人の想い人【半田/N】
「貴女に断られた奴は皆悔しがるけど、ちょっと嬉しそうだったんですよ」
『傷付けてるのでは?』
「傷付きますけど……俺達と同じくらい貴女も傷付いた顔をしてくれているので、伝えて良かったと思えるんですよ。彩條さんの気持ちも伝わると良いですね?」
『はい、ありがとうございます』
「……」
悠鬼に告白して来る奴は皆、悠鬼と同じくらい人をなるべく傷付けない様に告げる、優しい奴ばかりなんだろう。
悠鬼の好きな奴は受け止められずに酷く傷付けた俺とは違う、器の大きい男なんだろう。
俺はそれが少し羨ましくなって、そこから音を立てずに静かに去って行った。
不登校だった生徒が半田のお蔭で登校して来てから数日が経ったある日、悠鬼と半田のクラスでは調理実習が行われて居た。
クラスの皆が力を合わせて作る授業なのに半田は仲間に入れて貰えず、悠鬼は殆ど一人で作らされている。
「だって悠鬼のお弁当いつも美味しいんだもん!」
『つまみ食いは駄目って言ってるのに……それじゃお嫁に行けないわよ?』
「悠鬼見たいな旦那さんが欲しい!」
『男の人は家事をしなくて良いの』
「だから考えが古いってぇ」
何だかんだ言っても作ってあげてしまう悠鬼は、他の女子は可愛いエプロンを着ているが悠鬼だけは割烹着とやはり古い。
想い人と同じクラスなので作っている物も同じだが、普段料理をしない男の人より自分が作った方が美味しい事には自信があるので、悠鬼は食べさせ様と考えている。
「何でお弁当箱持って来てるの?」
『あの人にもあげようと思って』
「私もあげたい!」
『ふふっ、食材は少し多めに持って来たから作りましょう』
そうして友人に教えながら順調に酢豚とサラダとプリンを作っていた悠鬼達の班だが、半田達の班は火事にあって大騒ぎになり、半田の作ったプリンのみが出来上がっていた。
しかし、火事を起こした本人は泣きながら調理室を出て行ってしまい、それを見掛けた悠鬼はお弁当箱とプリンを持って後を追って行く。
「あああ!プリンが!?」
『ふふっ、プリンならここにあるわよ?』
「えっ?」