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淡い恋心

第32章 越えられない距離【吉良/N】



「悠鬼ちゃん、今は私が女だってバラされると困るんだよ……後でちゃんと訳を離すから……」

『そうなの?……分かった、私が何とかするよ!』

「ありがとう」

取り敢えずひなこに合わせる事にした悠鬼は、再び斗々丸と金春に近付いて訂正する。

『ひなちゃん、離婚して名字変わったんだっけねぇ!ごめんねぇ、それじゃ聞いても分からなかったよね?』

「いや、別に良いけど……」

「離婚してたのか?」

「う、うん」

『で、ひなちゃんって呼んでるのは……んっと、ヒヨコ見たいに可愛いでしょ?だからそう呼んでるの!』

「あぁー!雛鳥って事か?」

『そうそう!』

「うちのトップが雛鳥って……」

「ハハッ……」

「悠鬼!?」

『あっ!麟くん!』

何とか誤魔化して理解してくれた斗々丸と、若干不服そうな金春に苦笑いをして取り敢えず安堵の息を吐いたひなこだが、後ろから驚愕しながら慌てて近付いて来る吉良の姿を目にする。

怒っている吉良を気にせずに、悠鬼は彼に無邪気な笑顔を見せて抱き付く。

「麟くんって……」

「吉良先輩の事だったのか?」

「あれ程ここには来るなって言っただろ!!」

『!?……だってひなちゃんに会いたかったし、麟くんの学校も見てみたかったんだもん……』

「はぁ~……まぁ、こうなるとは思ってたけどな」

『……っ……』

「とにかくこっちに来い」

いつも冷静で落ち着いている吉良が珍しく怒鳴り声を上げたので、悠鬼はビクッと肩を跳ねさせて驚き、しゅんとしながらボソボソと呟く。

吉良は呆れて深い溜め息を吐くと、悠鬼の手首を掴んで人気のない場所に連れて行く。




『麟くん?』

「……っ……」

説教されるのかと怯えた様に相手を見上げると、吉良は悠鬼の背中を壁に押し付けて顔の横に手を置く。
そして何も言葉を発しないまま悠鬼の太股を厭らしく撫で、顔を近付けて行く。

『り、麟くん!?……やだ、何でッ……』

真顔で近付いて来たのでキスをされると察した悠鬼は、吉良の服を掴んでぎゅっと目を閉じる。

しかし、口を一向に塞がれず、代わりに軽く額に痛みが走り悠鬼は訳が分からないまま、目を開いて吉良を再び視界に入れる。
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