第32章 越えられない距離【吉良/N】
「バカ、ここに来たら知らない男にこういう事されるかも知れないんだぞ?少しは危機感を持て」
『麟くんっ……』
「学校まで送って行くからもう帰れ」
吉良は悠鬼から手を離すと、そう言いながら背を向けて先を歩いて行こうとするが、背中に温もりを感じて胸に細い腕を回される。
「悠鬼」
『麟くんなら良いもん……』
「俺は……お前を妹の様にしか見てない」
『……っ……』
「……悠鬼、放せ」
吉良が自分をどう見てるか解って居たがそれでも諦められず、悠鬼は前に回って彼の腕を引っ張ると唇を重ねる。
唇を離すと悠鬼は目尻に若干涙を溜めて見上げる。
『いつか絶対女の子として見て貰うからッ……私は麟くんじゃなきゃヤダ!』
「悠鬼!?」
『一人で帰るから良い!』
悠鬼はそう告げて走って去って行き、相手の背中を暫く見つめながら吉良は自分の口を手の甲で押さえる。
(いつまでも子供だと思ってたのに……悠鬼ッ……)
「麟太郎~……さっき見ちゃったよ」
「……」
「廊下通ってたら見えちゃってさ……麟太郎って年下が好みなんだぁ?」
「違う」
「違う?壁ドンしてキスしてた様に見えたんだけど……」
「……っ……」
「そっか~……あんなに可愛い子だったらアリだね……俺、口説いちゃおうかなぁ~」
ーダンッ!!ー
「アイツに手出したら許さないからな」
「やっぱり好きな子なんだ?彼女なんでしょー?」
「違うって言ってるだろ……ん?」
昼休みになって未良子に今朝の事を問われていると、携帯の着信音が鳴り吉良はポケットから取り出して画面の文字を見た後、微かに優しい笑みを浮かべる。
【さっきはごめんね?もうあんな事しないから嫌いにならないで?……また今まで通り会ってくれる?】
《俺が悠鬼を嫌いになる事は絶対にない。今度ケーキ奢るから、また会おう》
【うん!!】
アイツが今どんな顔でこの文字を打っているのか、容易に頭の中で想像出来る。
女としては見てやれないけど、悠鬼を嫌いになった訳じゃないから距離を置かれて眩しい程の笑顔を見れなくなるのは心苦しい。
もう二度と俺が泣かせない様にしないと……気まずくなるのは俺も嫌だからな。
Fin.