第30章 魔王な彼【有利/N】
「悠鬼ちゃん……嫌いなんて本気で思ってないでしょ?」
『健くんは二人の事知ってたの?』
「……うん、知ってる。でも渋谷は……」
『分かってる、分かってるけどっ……有利が大事だからって言ってくれたから、寂しくても信じて我慢してたのよッ!』
有利達の前から去って行った二人は、中庭に続く階段に腰を下ろして喧嘩の理由を話し合っていた。
地球の事も眞魔国の事も理解している村田は、鼻声になりながら本格的に泣き出してしまった彼女を見て、目線を合わせると目を細めて軽く笑みを向ける。
そして悠鬼の頬に触れて、慰める様に親指で涙の溜まっている目尻を拭う。
「悠鬼ちゃん、渋谷がどれだけ君を好きか解ってる?」
『……っ……』
「僕も妬いちゃうくらい、本当に大事に思ってると思うよ」
『健くんッ』
「僕の言葉が信じられない?……この中じゃ僕が一番二人の事理解してると思うけど」
有利は言葉でも態度でも、きちんと好きだという気持ちを伝えてくれる。
【俺も悠鬼が好きだよ、好きだから大事にしたいし……俺はまだ責任の取れる大人じゃないから何かあった時に悠鬼を守れない】
昨日一日で有利の愛情を感じられたが、有利が綺麗な婚約者と寝ていたのがショックで悠鬼は彼の本心が解らなくなってしまった。
『私っ……有利じゃなきゃイヤなの!』
「俺だって悠鬼じゃなきゃ嫌だよ!!」
『!?……有利っ』
「全く……渋谷、あまり悠鬼ちゃん泣かしたら本当に奪っちゃうからね?」
「もう傷付けないよ」
背後から当事者が現れると驚いている悠鬼とは対照的に、有利が来た事に気付いていたらしい村田は立ち上がり、少し挑戦的な笑みを見せて有利を挑発する。
村田とバトンタッチした有利は、若干の戸惑いを浮かべながら悠鬼の隣に腰を下ろし、本気で泣いて居る彼女に胸の奥が酷く痛む感覚を覚える。
「ここに来てから暗い顔ばかりさせてるよな」
『有利っ』
「俺は悠鬼の笑顔が大好きなのに……俺がそうさせてる、ごめん……どうしたら信じてくれる?」
有利を見て更に涙を流す悠鬼を強く腕の中に抱き締めるが、包んでくれる腕も囁く優しい声も少し震えているのが分かり、それが更に涙を溢れさせる。