第30章 魔王な彼【有利/N】
引っ叩かれた理由が解らず放心状態になった有利だが、本気でキレている彼女にギロッと睨まれて訳を聞くと、ハッ!?とあからさまにヤバいという顔をする。
昨日夜、悠鬼と別れた後自分の寝室に入った有利を、ベッドの上でいつもの様にヴォルフラムが待っていたのだ。
何度言っても出て行かない相手に諦めた有利は、脱力しながら(バレなきゃ良いか)と軽い気持ちでヴォルフラムと寝てしまった。
『恋敵としてヴォルフラムくんと闘うつもりで居たのにっ……別れたいならハッキリ言えば良いでしょ!?』
「別れたいなんて俺は思ってないよ!あれはヴォルフラムが勝手に……」
『ヴォルフラムくんだけの所為じゃないでしょ!?本当にイヤなら追い出せた筈だよ!』
「大きい声が聞こえたと思ったら悠鬼ちゃんが来てたのー?二人が喧嘩してるなんて珍しいねぇ」
「村田」
『健くん?』
城の中で高い地位にいるコンラッドやギュンターさえも二人の喧嘩には割って入れず、魔王である有利が気迫負けしている状況に驚愕する中、気の抜けた声が悠鬼と有利に掛かって来る。
「渋谷、凄い顔ー!バレちゃったんだ?」
「うるせぇよ!」
「ははっ……ん?」
有利の頬が真っ赤に腫れているのを見た村田は、二人に近付いて有利を可笑しそうにからかう。
不意に腕を抱き締められた村田が下を向くと、悠鬼が瞳を潤ませてキッと有利を睨んでいる。
『有利がそのつもりなら私も健くんと浮気する!』
「はぁ!?」
「ホントぉー!?僕も悠鬼ちゃんなら大歓迎だよ~」
「なっ!?」
『有利なんて大っ嫌い!!』
「!?……悠鬼っ……」
そうして村田の腕を引っ張り、悠鬼は有利の前から去って行く。
「陛下、お顔を冷やして朝食を……」
「……良い」
「魔王陛下に手を上げるなど言語道断です!何か処罰を」
「あの子は何も悪くないよ。これは完璧俺が悪いし……」
俺が魔王とかの前に、悠鬼にとってはただの彼氏なんだ。
きっと昨日の夜、寂しくて俺の寝室を訪れて来たんだろう。
もし、その状況を見たのが逆に俺で、悠鬼が他の男と寝てたら俺だって耐えられない。
俺は彼女に与えられた痛みを押えて、暫くの間彼女に与えてしまった苦痛を自分なりに考え続けた。