第30章 魔王な彼【有利/N】
『いやぁー!有利と一緒が良い!』
「ダメだってば!」
『こんな広いところで一人はイヤなのー!』
「それは解るけど……」
元の世界に帰れるまで悠鬼にも部屋を用意してくれたが、有利の寝室には劣るものの悠鬼の自室と比べたらずっと大きい。
一般家庭の有利にも悠鬼の気持ちは痛い程解るが、好きな相手と同じベッドで寝たら絶対我慢等出来ないと思っている有利は、欲情と闘いながら彼女の誘いに拒む。
『有利っ……』
「ったく……」
聞き分けのない悠鬼の手首を掴んだ有利は、彼女に用意された寝室へ一緒に入ると、細い腰を引き寄せて優しくちょっと強引な口付けを落とす。
有利が積極的な行為をするのは珍しく、いつも悠鬼の方から誘わないとキスをしてくれない彼のこの行動は、悠鬼を驚かせて硬直させるものだった。
「俺も男なんだけど……一緒に寝たら襲うかもよ?」
『襲ってっ……有利とそうなりたいもん、私は本当に有利が大好きなんだからッ』
「俺も悠鬼が好きだよ、好きだから大事にしたいし……俺はまだ責任の取れる大人じゃないから何かあった時に悠鬼を守れない」
付き合い始めてから一年が経っても有利が自分を抱こうとしない事に少し自信を無くしていた悠鬼は、彼の背中に腕を回して徐々に涙目になりながら必死に言葉を紡ぐ。
有利も彼女と同じ気持ちで躰でも愛し合いたいと思っているが、先の事を考えたらその時の感情だけで愛する彼女を抱く事は出来ず、悠鬼の目尻に溜まった涙を親指で拭いながら落ち着いた声色で本音を囁く。
その時の有利は悠鬼の胸の奥をきゅんと熱くさせるもので、彼を強く抱き締めるとじっと見上げる。
『愛してるって言って?』
「えっ……いや!それは……」
『言って?……そしたら放してあげる』
「……っ……あっ……」
『さっきの私に惚れ直したんでしょ?……明日も惚れ直しちゃうかもよ?』
「!?……あ、愛してますッ!……もう勘弁しっ……んっ!」
今の悠鬼は寝間着姿でそれだけでも興奮してしまうのに、今日と同じ様にドレスに身を包んだ彼女を見れる事を知れば、有利は一気に火が付いた様に頬を真っ赤に染めて今日何度目かの羞恥心を味わい、愛の言葉を捧げたのと同時に唇を奪われる。