第30章 魔王な彼【有利/N】
『……っ……有利……』
いつも元気な彼女が戸惑って今にも泣きそうな程、不安に満ちた顔を見せているのに気付いた有利は、椅子から立ち上がって悠鬼に近付く。
「ヴォルフラム、この子は俺の彼女だよ」
「なっ!?」
「悠鬼……ごめん、信じられないと思うけど……今から俺が話す事は全部事実だから」
有利は悠鬼の肩を抱き寄せてヴォルフラムの方を向くと改めて紹介し、再び彼女の方を向くと目線を合わせて優しくそして真剣な表情で、受け入れてくれるかは解らないが全てを話す事を決意する。
有利のその表情は彼女の悠鬼も初めて見るもので、彼の服をぎゅっと掴むと緊張しながらも小さく頷く。
「何処から話そうかな……えっと……あっ、俺がムラケンと知り合った頃の事覚えてる?」
『健くんと?……うん、私達が付き合って一ヵ月経った頃だっけ?』
「あぁー……そのくらいかな?」
悠鬼と向かい合わせで座った有利は、自分も思い出しながら自分達の時間と合わせて解り易く魔王になった経緯を話して行く。
彼女の反応は予想通りで、目をぱちくりさせながら不思議そうな顔をしている。
『有利が王様?……やぁー!見えなぁーい!』
「……だよね。俺も見えないよ」
『だって有利はカッコイイって言うより可愛いもん!』
「えっ、えぇー!……そこ?」
『学ラン着てるから余計説得力ないよぉ!』
「う゛っ……」
信じられないとでも言う顔をした後、悠鬼に声を出して笑われた有利は自分が王様に見えない事は自分でも理解して居るが、彼女に今まで可愛いと思われて居た事に軽くショックを受けてしまう。
「でもユーリがここの王だという事は事実ですよ」
『お兄さん達の方が見えるんですけど……でも私、ファンタジー物とか大好きだから面白ぉーい!』
「ハハッ、ゲームじゃないよ?」
「……ッ……良い加減、僕の事も話せよ!そしてさっさと別れろ!」
「ヴォルフラム……」
いつまでも婚約者がいる事を話さない有利に腹を切らしたヴォルフラムは、バンッとテーブルを叩いて悠鬼を睨み付けながら急かす。
悠鬼を威嚇して本音をぶつけて来るヴォルフラムに、有利は呆れた様に溜め息を吐きながら頭を悩ませられる。