第29章 彼・依存症【遙/N】
「悠鬼先輩、単純過ぎませんか?」
「そういうところが可愛いんだよ」
「悠鬼ちゃん、独占欲強いのにハルちゃんも嫌がる素振り見せないしねぇ」
「感情をあまり外に出さないハルの言動だから嬉しいんだよ」
悠鬼と遙が帰って行く後ろ姿を見ながら、三人はそう呟いて見送った。
『……』
「……」
夕陽が照らす海岸沿いを歩いて帰る二人。
悠鬼は前を歩く遙をチラッと見上げながらそっと手に触れ様とするが、触れる寸前で躊躇して引っ込める。
その繰り返しを悠鬼は学校を出てから何度もしている。
真琴達の前ならあまり気にしない遙だが、登下校だろうがデートだろうが地元で手を繋いだり抱き合ったり等を、人前でしたがらない。
今はどうしても遙と甘い雰囲気になりたいと思っている悠鬼だが、彼の嫌がる事をして嫌われるのは絶対にしたくないと思っている。
「……」
さっきは笑顔を見せたがやはり暗い顔をしている彼女を横目に見た遙は、悠鬼の手が近付いて来たところでガシッと手を繋ぐ。
前を向いているので彼女の顔は見れない……否、見られないがきっと驚いた後に嬉しそうに笑っているだろうと容易に想像が出来る。
『……っ……ハルくん、大好き』
「……うるさいっ」
そう小さく呟いた悠鬼は、握って来た遙の手を両手で包む様に握り返した。
『ぁっ……ハル……くっん……』
「……くっ……」
その日の夜は遙の家に泊まる事になり、二人はベッドの上で躰を重ね合う。
こうしている時も甘い言葉を言ってくれない彼だけど、その分抱いてる間は悠鬼から視線を逸らさず沢山の口付けを与える。
水で滴る彼も素敵だけれども、自分の上で感じて汗を流している彼も素敵だなと、頬に手を伸ばして悠鬼は遙を愛おしそうに見つめる。
「悠鬼」
『うぅ……ハルくん?……』
「俺がこういう事出来るのは悠鬼とだけだ」
『……っ……やぁ!今言っちゃ……んぁああー!』
「……はっ!……」
『んぅ……ハルくん?』
翌日の朝、遙のベッドで目が覚めた悠鬼は、起き上がると隣に彼が居ない事に気付いて少し残念そうな表情を浮かべる。
起きて一番に遙の寝顔を見れなかったからだ。