第29章 彼・依存症【遙/N】
悠鬼と遙は高校三年に上がり、体育館では新入生に向けて様々な部活紹介が行われた。
美術部である悠鬼の部活も、取り組んでいる事柄をステージで簡単に説明して何事も無く済ませた。
『は、ハルくん!?』
恋人である遙も水泳部の面々と部活紹介をする事を知っていたので、悠鬼はステージの下で両手を握り締めて楽しみにしていた。
現れた四人の男子部員は、ステージの上で水着姿で自分の得意なフォームを披露している。
そんな彼を見た悠鬼は目を見開いて驚愕しているが、徐々に口を尖らせてとても不機嫌そうな顔になる。
「真琴……悠鬼が睨んでるぞ」
「だから止めようって言ったのにっ……」
「何で睨むんだろうねぇ?ハルちゃんの水着姿見て喜ぶと思ったのに」
「……アイツが喜ぶとは思えない。真琴、言い訳考えろ」
「俺のせい!?」
「マコちゃん部長でしょー」
この後、悠鬼と会った時の反応を容易に予想出来る遙は、ステージ上から彼女を見付けて真琴に面倒を押し付け様としている。
『……う゛ぅ~……』
「……」
「えぇと……悠鬼ちゃん?言い出したのは江ちゃんだからね?」
部活紹介が終わって体育館を出て直ぐに遙達と悠鬼は再会し、その途端悠鬼は遙を抱き締めながら真琴を威嚇している。
『嫌がるハルくんに無理矢理やらせたんでしょー?』
「ハルちゃんもノリノリだったよー!」
『ハルくんの裸見て良いのは私だけなのぉー!』
「水泳をやってる時点でそれは無理ですって!」
遙に頼まれた真琴は一生懸命悠鬼を宥めようとしているが、渚の一言で火に油を注いでしまい無茶な発言をして来る。
少し頬を膨らませて不服そうな彼女を上からじっと見つめていた遙は、悠鬼の頭を撫でて自分で宥めるしかないかと軽く溜息を吐く。
「真琴、今日は悠鬼と帰る」
「うん、そうしてあげなよ」
『良いの!?』
「お前もないだろ?」
『うん!ハルくんと帰るー!』
登校はいつも一緒に行っているが、帰りは部活が違う為中々二人で帰る事が出来ない。
遙の言葉で子供の様に無邪気な笑顔を見せた悠鬼は、これでもかというくらい目一杯彼を抱き締めた。