第26章 銀髪の貴公子【イザーク/N】
私は伏せ目がちにそう呟く。
確かに私としてはイザークが他の女の子に優しくしていたら、私だって嫌だ。
でもあの子だって勇気を振り絞って告げた筈。
イザークの性格を理解している私でも、もしあれが自分だったら本当に立ち直れなくなる。
そう話していると、隣を歩いて居たイザークは不意にピタッと立ち止まり、身体ごと私の方を向いた。
「俺は好きな奴以外に優しくするつもりはない」
『えっ』
「先程の女子にも言ったが、何とも思って居ない奴に時間を割く程、俺は暇じゃない」
イザークは真っ直ぐ私の目を見つめて真剣な表情でそう告げて来ると、教材を両腕に抱えたまま再び歩き出す。
先を歩くイザークの背中を見つめたまま立ち尽くしてしまった私は、彼の言葉に驚愕して頬が赤くなって行くのが分かる。
「馬鹿者」とか「感謝しろ」等偉そうな態度をしている彼だけど、教材を運んでくれたり宿題を見てくれるっていうのは、そういう事なのかな?
「何をしている?早くしろ!」
『う、うん!』
期待して良いのかな?
自惚れて良いのかな?
言い方は決して優しいものとは言えないけど、イザークなりの優しさは感じる。
「ん?……何故イザークまで来たんだ?」
数学準備室に着くと椅子に座っていたクルーゼ先生が、入って来た私達に気付いて仮面越しに見る。
「すみません、クルーゼ先生。こいつの宿題は俺が見ますので」
「ほう、お前が……なら更に追加してやる」
『なっ!?何でですか!?』
「ユウキは私の科目だけテストの成績が悪い。次のテストまでに成績が伸びない様なら……赤点じゃなくても補修に出させる」
『私、赤点は一度も取ってないですよ!』
「私のテストでは最低70点以上は取れ」
『70点以上……』
「ご心配は要りません。俺が教えるのですから、必ず80点は取らせます」
『!?』
「期待しているぞ、イザーク」
『!?』
いつも40点前後の私が急に70点やら80点やら簡単に取れる筈ないのに、イザークが「必ず」等と自信満々に言うものだからクルーゼ先生も気を良くし、軽く口角を上げて笑みを浮かべている。
二人が冗談を口にする様な人ではない事を重々承知している私は、この時恐怖と焦りしか生まれなかった。